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小高い山のふもとたたずむ大きな朱塗りの鳥居でさえ、そのほとんどをおおい隠すように、見事なまでに黄葉こうようした枝葉を、広大無辺こうだいむへんに張り出した大きな銀杏いちょう古木こぼく鎮座ちんざする。

その鮮やかな朱赤と輝くような金色こんじきが、織り重なるように互いの色を際立きわだたせ合うさまや、殿舎でんしゃへと続く山道さんどうが、おおわれんばかりの色とりどりの美しい錦繍きんしゅうに、くっきりといろどられるその有様は、目もくらむような美しさである。

その山道を少しれると、人が並んで歩けるほどの地均じならしされた道が通っており、そこをなだらかに登ると、社務(どころ)の裏手へとつながっている。

築垣ついかきは見当たらない。ただ、周りの木々に溶け込むように竹で編まれた垣根が、”ぐるり”と張り巡らされている。その向こうには、四季折々の風情を細やかに配慮された庭園が広がり、その、これまた見事なまでに紅葉した木々の陰で、金木犀が咲き誇り、芳香を立ち昇らせる。そこここの下草の間には、青紫の竜胆りんどうや薄紫の紫苑しおんが、そのいろどりのぞかせている。

その庭先を抜けると、勇壮な寝殿造りの社務どころが見える。西の対に当たるこのむねでは、主に葉月が起居ききょしている。
その閑静な対の屋の一室から、時折歓声が上がると、それに呼応するように、楽しげな笑い声がさざめき立つ。



葉月の父、清直きよただはかつて囲碁の名手みょうしゅ名高なだかく、先の帝の御相手などもしていたが、その崩御と共に任を辞し、今では近隣に住む官僚の幼い師弟を集めて囲碁を教えると言う、手習所てならいどころをなしていた。

閑静な室内には、棊局が三面置かれており、戸口に張られた御簾みすのうち、真ん中だけを帽額もこうまで巻き上げると、そのいとまいっぱいに、初秋のさわやかな光と、微かに芳香をまとわせた風が、やわらかく降りそそぐ。

その戸口近くの棊局では、“くるり”と大きな丸い目のやんちゃそうな童水干わらわすいかん姿の童男おぐなが、葉月を相手にうなっている。
奥に並ぶ二面には、童男が三人、童女わらわめが一人。皆まだ十に満たない元服前の童部わらわべたちばかりである。

先ほどからずっと盤面を凝視して、「う〜ん」とばかりに唸っていた童男が、大きな瞳を“くるり”としばたかせて、「ここ!」とばかりに打ち下ろすと、「どう?」とばかりに振りあおぐ。みずら結いの下げすそが“ふわり”と揺れて、その様子の可愛らしさに、葉月の顔が思わずほころぶ。



ひさしを渡る衣擦きぬずれが、かすかに近づく音がして、「葉月様」そう声を掛けると、水干すいかん姿の召次めしつぎが、御簾のかたらにおもむひざをついた。

「藤原佐為様が御越しになられ、葉月様にお目通りをと、申されておりますが。」
気もそぞろげな困惑顔が、葉月にそう告げ知らせる。

「父はおらぬと、そう申せ。」
碁笥ごけに手を掛け、透き通るばかりの白いやわらかげな指先が白石をはさみ取ると、その大きな黒曜石の瞳を、盤面かららすことなくそう言い付けた。

「それが・・・、」
と、そう召次が、言いにくそうに口ごもる、と―――、


「清直殿には、話は通っているはずだがな。」

―――そう、声がして、御簾の端陰はかげから、”ゆらり”と現われたのは長身の直衣姿―――。

すずやかな秋風が“さわり”と吹き渡ると、艶やかに碧なす黒髪が、その端正な容顔ようがんに“さらり”とらめき降りかかり、身にまとった淡萌黄と梔子くちなしを重ね合わせた萎装束なえしょうぞくが、すがしい薫香くんこうくゆり立たせる―――。

その姿に、童部らが、驚顔おどろきがお細波立さざなみだった。

「うわぁ。美っ人ぃぃぃぃん!!」
葉月のたいで石を持つ童男が、“くるり”と目を見開いて、調子はずれの声を上げると、隣の童部が呆れたように、「ばぁか。どう見ても男だろ。」と、“ぽそり”と小声でたしなめる。

「な・・!?」
そう、葉月が声を上げ、その声主を振り仰ぐと、打ちかけたそのかいなが、呆気あっけに取られたかのように、”ぱちり”と鳴って打ち下ろされた。

「これはまた見事な失着だな。」

―――佐為は・・・、

打たれたその手を見て取ると、可笑しげに目を細め、優美な笑顔を葉月に向けた。


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