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今夜の番組チェック


−14−


―――かんばしいすがしい薫香くんこうが、

        葉月の体を包み込む―――。


一瞬、何がなんだかわからない。
ただ、自分が佐為にしっかりとらわれていることだけは理解できた。


“かっ”と体が、羞恥で火照ほてる―――。


「は・・、離せ!!」
葉月が、くぐもる声でとがめるように言い放つと、

「だが、この有様ありようではどう見ても、離れるべきはそなたであろう。」
そう、佐為が可笑おかしげに、少しあきれたように言い返した。


確かにそれはそうである。


今の葉月は、佐為が咄嗟とっさに差し出した、そのかいないだかれるように、かろうじて受け止められているのである。

佐為の胸へと引き寄せられて、不安定に支えられているこの状態では、その胸元に手をついて、みずから身を起こさぬ限り、そこからのがれる手立てはない。


だが、幾重にも重ね合わせて絹衣きぬごろもまとっているとは言え、なよやかな薄衣うすぎぬのこと、抱かれるかいなのしなやかさでさえ、はっきり葉月に感じ取れて・・・、



その胸元に、手平てひらを当てるのを・・・、

          葉月は一瞬躊躇ためらった―――。



戸惑うようにあおぎ見る葉月の瞳を、わずかに伏せたけぶりたつ眼差しが、“ふわり”とやわらかくのぞき込む。


初めて間近に見る、その容顔ようがんの匂いやかな美しさに、葉月が思わず息を呑むと―――、


”ふ”と何気なにげに・・・、


  ―――佐為の桜色の唇が落とされた・・・。


思いがけぬその所作しょさに、葉月の紅い唇が驚いたように薄く開くと、佐為のそれが触れ合わんばかりに近づけられて・・・、






艶やかな黒髪が、“さらり”と流れ落ちると・・・、

二人だけのとばりを下ろす―――。






ことの成り行きに息をみ、好奇に満ちた眼差しをそそぐ童部らから、「わあ」と歓呼かんこの声があふれた。


(・・!?は?)

その声に”はっ”と葉月が我に返って、
”ぱちくり”と、まあるく見開くまなこに映ったものは・・・、



れ間近に寄せられた
       端正な佐為のかんばせ―――。



「な、な、な、何!」
あわや、紙一重で口付くちつけされかけ、先ほどまでの躊躇ためらいが、まるで無かったかのように、咄嗟に佐為を押しると、慌てて葉月が飛び起きた。

「何と言われても、そのように切なげな顔をして、離れがたげにしがみ付かれては、ついその気になってしまうな。」
葉月の戸惑いとは裏腹に、佐為は事も無げにそう応えると、”にっこり”と笑顔を向ける。

「つ・・つ・・・つ・・・つい!?
ついで、あなたは、このようなことをなされるのか!!」
山の木々の紅葉に負けんばかりに、葉月はその艶やかな頬を赤らめて、あきれたように言いとがめると、

「そりゃ、するだろう、男なら。」
そんなことを問われることさえ、に落ちぬように、こちらは怪訝けげんおも持ちで葉月に答える。

「は!?」、その当然と言わんばかりの佐為の態度に、呆れ果ててものも言えないと言うならば、かえって話はすんなり終わる。・・・が、根が生真面目な葉月としては、佐為のその軽びやかな物言いが気に入らない。


だから・・・、


手指で”たん!”と床を打つなり、詰め寄らんばかりに身を乗り出すと、


「あなたの!その軽佻浮薄けいちょうふはく所行しょぎょうの数、々!!
世の女が皆、あなたのその妄動もうどうを許すとでも思っているのか!!口を開けば戯言ざれごとばかり!大体あなたに、・・・」

そう、葉月が佐為をとがめ立て始める。
こうなると、ついでに普段の憤懣ふんまんも爆発したりするのだ・・・。


そして・・・、
まだまだ続く葉月の小言こごとを縫うように、


「ねぇ、けいちょうふはく、って何?」
いつの間にか身近に寄り、直衣のそでを”つい”と引き、光が“こそり”と佐為に問うと、
おのが心に素直なこと、か。」
片眉をわずかに上げて、どこか少し決まり悪げに、こちらも小声で”こそり”とつくろう。

少々、あやしげな気もするが、光は「ふーん。」と返事をすると、床の上に散らばる石を一つ、二つと拾い上げ、「はい。」とばかりに手渡すと、何の造作ぞうさも無いように、示教半途しきょうはんとの盤面を、佐為が“ひょい”と並べ直す。


そう、こういう状況では、
妙に男は連帯するのだ―――。


葉月のことなど知らぬ気に、男二人で“こそこそ”と、内輪話をする様子に、更にここで葉月が切れた。


「き、聞いているのか!私の話を!」


盤面に置きかけた石を、”ぴたり”と宙にとどめると、いつもの優美な笑顔を向けて、
「もちろん聞いているよ、反省もしている。」
そう、佐為が”さらり”と返す。

(き・・聞いてないし、反省もしてない。絶対に!!)

ひざの片手は”ぷるぷる”震え、もう片手は眉間みけんを押さえる。怒りの”ぶちぶち”文様もんようが、葉月の周りを乱舞する。

「大体!!何故あなたのような方がこのような所で、童部相手に碁を教えることがある!確かにあなたは希代きたい妙手みょうしゅ世上せじょうに名高い。だからこそ、ここでの手習いを、父があなたに乞うたのだろうが、はっきり言って、迷惑千万せんばん!たかだか童部相手のこと、自今じこん以後、煩労はんろう願うこともありますまい!!」
そう”ぴしゃり”と言い切るなり、”たん!”と床を立てた葉月を、まじろぎもせぬ佐為が見上げる。


―――わずかにらいだ秀眉なかんばせ―――


葉月は”きゅっ”とその紅い口端くちばたを噛むと、居たたまらぬように身をひるがえし、き立つように御簾のいとまり抜けた。


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