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琴線が鳴る――― それは、佐為の想い・・・ どこまでも静やかではあるが、 限りなく強い旋律。 その澄み渡る音色が、 葉月の心に響き渡る―――。 (この人は―――、 誰よりも愛しているのだ、 自らに与えられた囲碁と言う名の 天授の至宝を・・・。) 葉月を見下ろす佐為の瞳、 その瞳に映るのは、唯一つの・・・ 「それが、あなたの眼に映る、唯一つの誠なのか。」 不意に口を衝くように出た、葉月の呟くようなその問い掛けが、よほど思い掛けなかったのか、 佐為は少し驚いたように秀眉を上げると、瞬ぎもせず見上げる瞳を、尚も深く覗き込んだ。 やがて・・・、 答え掛けるように、 佐為がその桜色の唇を薄く開いた時―――、 「うわっ!!あかりっっ!」 大きな叫び声とともに、”だん!!”とこれまた大きな音がして、驚いたように二人が同時に振り向くと、 こちらに駆け寄る小さな朱赤の衵姿―――と、 そして、それに続くのは、御簾を撥ね落ち、 ”じたばた”と転がるようにこんがらかった童部らから、 這うように抜け出した黄檗色の童水干―――。 思いつめた顔をして、あかりが”たた”と葉月の傍に駆け寄るなり、 「ごめんなさい。私がお願いしたの。もう、相手をして欲しいなんて言わないから。だから・・・、」 と、やっとの思いでそこまで言うと、堪え切れぬようにつぶらな瞳から、”ぽろぽろ”と涙が零れた。 「そなたが何故泣く?そなたが悪いわけではないのに。そなたも光も、他の皆も佐為に教えてもらえばいい。それが、父上の望みなのだから。」 葉月があやすようにあかりの小さな手を取り、優しく言い含めるように、いく筋も涙が滴る可憐な顔を覗き込むと、 「本当に?次も?またその次も?」 涙で濡れた長い睫を”ぱちぱち”と瞬かせ、あかりが小首を傾げて問い返す。 「ほら、涙を拭いて。さっきの続きがあるのだろう。」 葉月は”こくり”と頷くと、小さな顔の涙の跡を、”そっ”と指先で拭い取り、あかりの手を引くようにゆっくりと立ち上がった。 「良かったね、許してもらえて。」 直衣の袖を”つい”と引き、さもうれしげに光が言うと、 「そなたたちのお陰だな。」 と、こちらも”にっこり”と優美な笑顔を光に返す。 何事もなかったように楽しげに手を繋ぎ、少し先行く葉月とあかりに、光は”ほっ”としたように目を遣ると、 不意に少し歩を緩め、 「あのさ・・、ほんとにあかりと結婚するの?」 ”くるり”と目を見開いた困惑気な小さな顔が、角髪結いの下げ裾を”ふわり”と揺らして、佐為を見上げる。 「ふうん。素知らぬ振りをしていたわりには、ちゃんと聞いていたんだな。」 その様子に、佐為が少し戯けたように秀眉を上げると、 「そなたが素知らぬ振りなどするから、あかりは頷いただけだよ。あかりはお前のことが好きなんだよ。」 そう言うと、”ふわり”と優しげに微笑んで、その長い指先で、光の額を”とん”と突付いた。 廂を渡る爽やかな秋風は、 清しい芳香を微かに纏う―――。 その薫香を運ぶそよ風は、男二人の内輪話までも、 思いの外はっきりと、先行く二人の元へと吹き寄せている―――。 男二人、そのことに気づいているやら、いぬのやら・・・。 「・・・好きなんだよ―――。」 不意に聞こえたその声に、あかりは艶やかな透き通るように真白い頬を、”ぱっ”と耳まで赤く染め上げると、繋いだ葉月の柔らかな手平を”きゅっ”と握り締めた。 はにかむように見上げる、血の色を綺麗に透く小さな顔に、葉月が”くすり”と微笑み返した時―――、 「それに、私は葉月がいいな。」 不意に聞こえた、何げな安気な佐為の声に、 ―――”どきり”と大きく鼓動を打つ。 (は!?なっ・・、何を言ってる!) 今度は、”ばばっっ!”と瞬く間に、葉月が頬を染め上げると、はっきり感じる熱い頬を、慌てて手平で覆い隠した。 その様子に気づいていぬのやら・・・、 「さっき葉月を抱きとめた時、腕に当たったふくらみも、見掛けに寄らずなかなか見事なものだったしな。」 そう、佐為が”にっこり”と、うれしげに微笑んで、あっけらかんと光に返すと、 (は?ふ・・、ふ・・、ふくらみ!?) 葉月は唖然と呟いて、思わず自分の胸元を見下ろした。 そう、葉月が佐為の腕のしなやかさを感じて戸惑っていた時、佐為の方は、何気ない顔をしながら、しっかりと葉月の胸のふくらみを玩味していたのである。 (は?はぁ?はぁぁぁぁっっっ〜!!) 先程までの面映さは何処へやら、葉月は”くるり”と振り返るなり、”きょとん”と怪訝気に止まる佐為を、思いっきり睨み付けると、 「童相手に何を言ってる!やっぱりここへは二度と来るなぁぁぁぁっっっ〜!!」 そして―――、 葉月の怒声が、邸中にこだました・・・・。 (もぉ、佐為ってば・・・(ーー;))
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