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今夜の番組チェック


−8−

神社に隣接する住居を兼ねた社務どころは、先のみかどの命により建てられた、小ぢんまりとはしているが、手の届いた立派な寝殿造しんでんづくりの建物である。

渡殿わたどのから眺める庭園は、雅やかに美しく調和され、小さいながらも築山つきやまがある池もあり、池中をたたえる清水には四季折々の自然の姿に応じて、その時々の緑の影を落とすのであろう。

そろそろ色づいてきた、その向こうの取り取りの紅葉で彩られた山の風情あるたたずまいは、見事なまでの借景しゃっけいである。

−−−その渡殿に、葉月は立っている。

静かに弓を構える。
その先には、築山があり、的らしきものがうかがえる。ちょうど射的に適した距離であろうか。
”きりり”と、微かに音がする。目を細め、矢より先に的を射抜く。

なおも、“きりり”とつるを引く―――。

―――鳥が鳴く。

―――風が“さわり”と吹く。

―――時が止まる・・・。

ぎりぎりまで引ききられた弦が、二つ身に裂かれる限界と判断したか。
―――その瞬間、その指を解き放った。

“たん!”
かなたでかすかに音がした。的中近くに、矢が刺さる。

身じろぎひとつせぬその姿を、涼やかな風が撫であげた―――。



「ほう、相変わらず見事なものだな。」
渡殿の端に立つ、その声の主をもくすると、
(この男を射るべきだったか・・・。)
葉月の心に、ふとそんな気持ちが沸き上がった。

―――鶸萌黄ひわもえぎ常盤緑ときわみどりを重ね合わせた長身の直衣のうし姿。烏帽子えぼしを頂く優美な面差おもざしに、そよ吹く風に吹き立てられた艶やかな黒髪が舞いかかる。
いつの間にそこに立ちとどまっていたのか―――、

―――佐為である。

「ここで何をしている?」
驚きと、込み上げる苛立ちを押し殺し、葉月がそう問うた途端、
”ふっ”と、一笑ひとわらいしたかと思うと、
”くくくくくく・・・”と佐為が、たまらぬように笑い出した。

「なっ・・・!」
突然大笑いされ、一瞬葉月がたじろいだ。
「何が可笑しい!!」
激しい羞恥を振り払うように、葉月は声音こわねを荒げて問い正す。

「そなた、先日も私の顔を見て、そう聞いたが、他に聞くことはないのか?」
やっと、笑いが収まった佐為が、まだ可笑しさをこらえきれぬように、細めた優美な目を葉月に向けながら、そう聞いた。

「他に何を聞くことがある。」
相変わらずのそっけない葉月のいらえに、
「興味もないと言うところか。」
佐為はその美しい秀眉を上げ、「ふむ。」と一息考えると、
「ならば、そなたの問いに答える必要もないであろう?」
と、これまたこちらも応酬する。
その気にさわる言いように、葉月は、紅い口端を噛み締めた。

「だから、誰の許しを得て、ここにいるのかと聞いておる!」
もうすでに、葉月の周りには、怒り心頭の”ぶちぶち”文様が乱舞している。

それを、感じ取ったか取らぬのか、佐為はしばらく怪訝けげんな顔をしていたが、
「少々尋ねるが、気づかぬ間に、そなたに何か不仕付ぶしつけなことでもしたか?」
そう、真顔で尋ねられ、さすがに葉月も拍子抜けしたが、
「これは殊勝しゅしょうな物言いを。手練手管てれんてくだで女をろうし、当代とうだい風流男みやびおを気取る男が申される言葉とも思えませぬな。」
と、反駁はんばくする。

少し思い巡らせるような目を葉月に向け、微かに吐息ためいきくと、
「そなた、私のことを良く知っているようだな。」
そう言いながら、流れるような身ごなしで近づく佐為に、半歩退き、葉月は間合いを取ろうとした―――。

・・・が、その刹那―――、

伸ばされたそのかいなが、弓ごと葉月の手首をつかみ、引きつけた。
「なっ・・・何をする!!」
黒目がちのくっきりとしたその目が、射落とすように佐為を睨みつけた。

だが、いくらあでやかと言えど、そこは男と女。あらがうその手もむなしく、しなやかな長身のからだが、なおも葉月を引き寄せようとしたその時、飛んできた葉月の平手を、顔面すれすれ、きわどいところで、空いた片手が受け止めた。

「これはまことに気の強い。我が目で確かめぬ噂など、まったく当てにならぬもの。そう思おておったが、美しいが、気の強い巫女がいると言う話は、本当であったらしいな。」
そう言うと、わずかに突き放すように、葉月の両手を解放した。

両手を握り締め、屈辱に震える葉月が、佐為と対峙する。

―――佐為のその清艶な瞳が、微かに翳る。

(なぜ、そのような顔をする―――)
その揺らめきに、思いもかけず居たたまらなさを感じると、葉月の心が微かに震えた。

「藤原佐為殿か。」

その呼び掛けに、佐為の瞳が葉月から反れる。それと同時に葉月も振り返った。


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